2020-01-02から1日間の記事一覧

クルムシュンデリ

ある冬のことだった。ぼくは三十四丁目の通りを東に向かって歩いていた。冷たい風が左側からビュービューと吹いていた。細かな雪も混ざっていた。 ぼろぼろになったリュックのストラップを力強く握り、目を細めながら歩いた。視界は悪い。でも、なかなか悪…

売れっ子作家

ある土曜日の午後、ジェイミーは分厚い原稿の束を持って向かいのアパートの203号室をノックした。初老の男が10センチほどドアを開いた。 「できたのか?」 「一応は。でも――」 「明日のこの時間にまた来い」 原稿を受け取ると彼は勢いよくドアを閉めた…

ある午後の妄想

そのとき彼はインドリコテリウムについて何一つ知らなかった。史上最大の陸生ほ乳類であり、体が大きいせいで環境の変化に適応できず絶滅した象のことなど、知らなくて当然だ。誰だって知らない。 わたしたちは家の近くにある、汚く狭い喫茶店にいた。ほかに…

ぎゃふん  

ある日ふとねこにぎゃふんと言わせてやりたくなったのでぼくはねこを膝の上に抱え「おい、ぎゃふんと言ってみな」と声をかけた。 ぼくが飼っている(というかいつの間にか居座っている)ねこは優秀で、読み書き計算以外はなんでもできた。つい先日も調子の…

津軽

斎藤くん。なぜ生きているのかと、わたしはときどき自分へ訊くのですが、するとその問いは、なぜ死なないのかと、そのように勝手に変換されわたしの元へ届き、それは、わたし自身を、ひどく混乱させます。わからないからです。 なぜ生きるのか、ではありま…